2022年11月より展覧会「ワイルド・ファイヤー:火の自然史」(企画展)が、国立科学博物館(東京・上野公園)で開催されています。
ワイルド・ファイヤーについて過去から現在に至るまでの長期的な視点から見つめることで、地球環境の変遷を理解するとともに、人類の活動が地球環境に与える影響について考える展示となっています。
わたしたちは、展示企画・設計・施工をお手伝いさせていただきました。
ワイルド・ファイヤーとは、野火、山火事のこと。その発生には、酸素、燃料、着火現象という3つの要素が必要とされます。
長い地球の歴史の中で、酸素濃度や燃料となる植物は大きく変化。ワイルド・ファイヤー発生の規模や周期に影響を与えてきました。
ワイルド・ファイヤーを知るためには、地球環境の変遷を合わせて理解することが必要。
そこで本展は、過去から現在に至る長期的な視点から紐解くように構成されています。
わたしたちは、おのずとイメージが膨らみ、読み解きやすい展示空間を目指して会場装飾を設計しました。
ワイルド・ファイヤーの地球史規模の物語へと来場者を引き込む導入部は、インパクトのある空間演出で、展示の世界観を伝えました。
野火を象徴するオレンジと焼かれた荒野を想起させるチャコールグレー。ダイナミックな色彩の対比で演出することで、空間全体に迫力を持たせています。
天井から吊り下げたバナーは炎のイメージ。さまざまなサイズを高低差をつけながら重ね付け、「ボリューム感」を演出しています。
濃いグレーの棒状の造作は、焼けて炭化した木々がモチーフ。乱立するように設置し、木立が炎に焼かれる様子を表現しました。
床面にも、燃えた後の草地の写真を実寸大で貼り込むことで「没入感」を高め、さらにこれらの造作に対して炎の映像を投影。メラメラと燃え盛る炎が、静的な空間に「動き」をプラスしています。
このように様々な素材や表現を組み合わせることで、世界観のある展示空間を作り上げました。
導入部に続くコーナー「ワイルド・ファイヤーとは?」の演出も導入部を踏襲。炎のバナーと炭化した木々の造作とを組み合わせて展開しました。
イメージを掻き立てるビジュアル表現を用いて空間を装飾しました。
植物の写真を大胆にレイアウトしたグラフィックが、火に囲まれた空間に彩りと抜け感を演出。来館者の興味を引きつけます。
こちらのコーナーの装飾にも、大胆なビジュアル表現を用いています。
モチーフとしたのは各時代の地層写真。展示や解説パネルの背景となる会場壁面に刷り込むことで、会場装飾で地球環境の変遷を表現しました。
一部の壁面は山型に切り出し、空間のアクセントとなっています。
国立科学博物館の企画展は、専門的な科学研究に基づく見応えのある展示です。それゆえ、一般の来場者にとっては難解に感じられてしまう場合も。
そこでキャラクターを取り入れた解説パネルをご提案しました。
「チャコールくん」と称した可愛らしいキャラクターが展示をナビゲート。キャッチーな表現で難解さが和らぐとともに、楽しさとわかりやすさが加わりました。
本展の展示物はワイルド・ファイヤーのあとに残された植物の標本。火に焼かれて炭化し、暗めの色をしています。
一方で標本が置かれる館所有の展示ケースの内部も灰色。標本とベースの色味が近い状況では、埋没して見えづらくなることが懸念されました。
そこで展示ケース内部を白くすることをご提案。標本が際立つことで見やすくなりました。